【妊娠中のオペ室勤務】放射線・長時間の立ち仕事はどこまで配慮してもらえる?看護師が知っておきたい母性保護のルール

妊娠中の働き方

はじめに

「妊娠したけど、透視が入るオペにこのまま入っていいのかな…」
「長時間の立ちっぱなし、お腹が張ってつらい。でも人が足りないし言い出しにくい」
「夜勤やオンコールって、妊娠中でも回ってくるもの?」
「配慮してほしいって言ったら、評価が下がったりしない?」

オペ室で働く看護師なら、妊娠したときにこんな不安を感じる人は多いと思います。

筆者も最近、整形外科のオペに入ることが増えました。術中透視(Cアーム)やポータブル撮影は日常的にあります。放射線は目に見えないぶん、「実際どれくらい気をつければいいの?」がわかりにくいですよね。

この記事では、妊娠中の看護師を守る法律のルールと、オペ室でできる放射線対策をまとめました。


まず結論

気になること使えるルールポイント
放射線電離放射線障害防止規則妊娠中の被ばく限度は通常よりかなり厳しく決められている
立ちっぱなし・つらい業務労働基準法65条3項(軽易業務転換)本人が請求すれば、軽い業務に替えてもらえる
休憩・作業の制限男女雇用機会均等法13条(母健連絡カード)医師の指導があれば、職場は対応する義務がある
夜勤・残業・オンコール労働基準法66条本人が請求すれば、時間外・休日・深夜の勤務は免除
重いものの持ち上げ女性労働基準規則一定の重さ以上は、妊娠していなくても女性は禁止
申し出たことでの不利益男女雇用機会均等法9条解雇・降格・減給などは禁止

制度によって「本人の請求が必要なもの」と「請求がなくても事業者が守らなければならないもの」があります。軽易業務への転換や残業・深夜業の制限は本人の請求が必要ですが、放射線の線量限度や一定の重量物の取扱制限は、本人の請求の有無にかかわらず守らなければならないルールです。


妊娠したら、いつ職場に伝えればいいの?

法律で「妊娠何週までに報告しなさい」という決まりはありません。

ただ、オペ室の場合は放射線の管理があるため、早めに伝えるメリットが大きいです。次の章で説明するように、妊娠中は「妊娠と診断されたときから」被ばく限度が厳しくなります。職場が把握していないと、透視の入るオペから外すなどの対応ができません。

安定期に入るまでは同僚に広めたくない、という人も多いと思います。その場合は、まず師長(上司)だけに伝えるという方法で十分です。


放射線って、妊娠中も浴びて大丈夫なの?

法律で決まっている被ばく限度

放射線を扱う業務で働く人の被ばく限度は、「電離放射線障害防止規則(電離則)」で決まっています。

対象限度
放射線業務従事者(全員)5年間で100mSv、かつ1年間で50mSv
女性(妊娠の可能性がないと診断された人を除く)3か月で5mSv
妊娠中の女性妊娠と診断されてから出産までに、腹部表面で2mSv、内部被ばくで1mSv

妊娠中は、通常と比べてかなり厳しい基準になっていることがわかります。

線量計(ガラスバッジ)は「お腹」につける

電離則では、線量計をつける場所も決まっています。

  • 男性、または妊娠の可能性がないと診断された女性 → 胸部
  • それ以外の女性 → 腹部

「なんとなく胸につけていた」という人は、一度確認してみてください。

妊娠中はオペに入れないの?

国際放射線防護委員会(ICRP)は、次のような趣旨を示しています。

胎児の線量が1mSv以下に保たれるという合理的な保証があれば、妊娠中の医療従事者も放射線環境下で働くことができる

つまり、「妊娠=放射線業務は絶対NG」ではありません。きちんと管理されていれば働くことはできる、という考え方です。

とはいえ、不安を抱えたまま働くのはつらいものです。透視の入らないオペに配置してもらえないか相談するのは、まったくおかしなことではありません。後で説明する「軽易業務転換」や「母健連絡カード」を使って、正式にお願いすることもできます。

※ICRPが示す「胎児線量1mSv」と、日本の電離則が定める「腹部表面の等価線量2mSv・内部被ばくによる実効線量1mSv」は、測定・評価している対象が異なります。


整形のオペで、放射線は具体的にどう防ぐ?

整形外科のオペは、骨折の整復や髄内釘などで透視を使う場面が多いです。妊娠しているかどうかに関係なく、基本の対策を押さえておきましょう。

放射線防護の3原則

原則オペ室での具体例
時間透視中は、必要な作業以外で近づかない
距離透視を出すときは一歩でも下がる。距離が離れるほど、被ばくは大きく減る
遮蔽プロテクター・甲状腺プロテクター・防護メガネ・防護板を使う

Cアーム(術中透視)で気をつけたいこと

  • 散乱線の発生源は「患者さんの体」です。 機械そのものより、患者さんに近いほど被ばくが増えます。
  • X線管球側(X線が出る側)のほうが散乱線は多くなります。 立ち位置を選べるなら、受像器(画面に映す側)の側に立つほうが被ばくを減らせます。
  • 「透視出します」の声かけを合図に下がることを、チームの習慣にしておくと安心です。
  • プロテクターは前だけを覆うタイプより、背中まで覆うタイプ(ラップアラウンド型)が安心です。 器械出しや外回りでは体の向きがよく変わるためです。

ポータブル撮影のとき

  • 撮影の声かけがあったら、できるだけ離れるか、防護板の後ろに入る。
  • 距離の目安や、部屋の外に出るかどうかは、院内の放射線管理のルールに従ってください。わからない場合は、診療放射線技師さんに聞くのが一番確実です。

立ちっぱなしの長時間オペ、どこまで配慮してもらえる?

軽易業務転換(労働基準法65条3項)

妊娠中の女性が請求した場合、職場はほかの軽い業務に替えなければなりません。

例えばこんな相談ができます。

  • 長時間のオペ(整形の大きな手術など)から外してもらう
  • 体調や負担に合わせて、器械出し・外回りの担当を調整してもらう
  • 透視の入らないオペに配置してもらう

ただし、職場に「新しく軽い業務を作ってまで用意する」義務まではないとされています。人員配置によっては、希望どおりにならないこともあります。まずは師長と具体的に話し合ってみてください。

※労働基準法の基本ルールは、こちらの記事でまとめています。

【労働基準法の基本】看護師が最低限知っておきたい7つのルール | ナースの労務ノート

母健連絡カード(男女雇用機会均等法13条)

妊婦健診で医師から「立ち仕事を控えて」「休憩を増やして」などの指導を受けた場合、職場はその指導を守れるように対応する義務があります。

主な措置は次のとおりです。

分類具体例
通勤の負担軽減時差出勤、勤務時間の短縮
休憩休憩時間を長くする、回数を増やす
作業の制限・休業長時間の立ち仕事の制限、勤務時間の短縮、休業

このときに使うのが「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」です。医師に書いてもらって職場に出すと、指導の内容が正確に伝わります。

「つらいけど、自分の口からは言い出しにくい」という人こそ、この仕組みを使ってみてください。医師の指導という形になるので、話が通りやすくなります。


夜勤・オンコール・残業は断れるの?

断れます。 労働基準法66条で、妊産婦(妊娠中と、産後1年以内の女性)が請求した場合、職場は次のことをさせられません。

  • 時間外労働(残業)
  • 休日労働
  • 深夜業(22時〜翌5時)
  • 変形労働時間制で、1日・1週間の法定労働時間を超えて働かせること

オペ室のオンコールで、呼び出し後の勤務が時間外労働・休日労働・深夜業に当たる場合、本人が請求していれば、その時間帯に実際に働かせることはできません。そのため、実務上はオンコール当番から外すなどの勤務調整が必要になることがあります。

※労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合は、時間外・休日労働の制限は適用されません(深夜業の制限は適用されます)。役職名だけで判断されるわけではありません。

夜勤免除のくわしい条件は「【看護師の夜勤免除申請】妊娠中・育児中に使える制度まとめ | ナースの労務ノート」で解説しています。


重いものの持ち上げ(移乗・器械コンテナ)は?

女性労働基準規則では、妊娠しているかどうかに関係なく、女性に次の重さ以上のものを扱わせることは禁止されています。

年齢断続作業継続作業
満18歳以上30kg以上20kg以上

整形のオペは、器械コンテナやインプラントのセットが重く、患者さんの移乗や体位変換も多いですよね。上の基準より軽い重さでも、妊娠中は負担になります。医師の指導があれば、母健連絡カードで作業の制限をお願いできます。


配慮を申し出たら、不利益にならない?

男女雇用機会均等法9条で、妊娠・出産や、ここで紹介した制度を使ったことを理由に、次のような扱いをすることは禁止されています。

  • 解雇
  • 契約の更新をしない
  • 降格・減給
  • 人事評価で不利に扱う

また、妊婦健診に行くための時間を確保することも、職場の義務です(均等法12条)。

妊娠週数健診の回数
23週まで4週間に1回
24〜35週2週間に1回
36週以後出産まで1週間に1回

※働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について|厚生労働省


オペ室の妊娠あるある

  • 透視のオペの日だけ、なぜか「代わろうか?」と言われる回数が多い
  • お腹が大きくなってくると、プロテクターのサイズが合わなくなる
  • 長時間オペの後半、術野に集中しているうちに気分が悪くなっていたことに気づく
  • 「妊娠中だからオンコール外していいよ」と言われても、ほかの人の負担が増えるのが気になって素直に喜べない

オペ室ではよくある悩みだと思います。制度を使うのは権利です。ただ、気まずさを感じてしまう気持ちもよくわかります。「お互いさま」と言える職場の空気を作っていけるといいですね。


相談するときの流れ

  1. 師長(上司)に妊娠を報告する:透視の入るオペがあることを伝え、配置について相談する
  2. 線量計の位置を確認する:腹部につけているか確認する
  3. 妊婦健診で医師に相談する:立ち仕事や体調のことを伝え、必要なら母健連絡カードを書いてもらう
  4. 必要な請求をする:軽易業務転換、夜勤・オンコールの免除などを申し出る

まとめ

項目ルール自分からの請求
放射線の被ばく限度妊娠中は腹部表面2mSv・内部被ばく1mSv不要(ただし妊娠の報告が前提)
軽い業務への転換労基法65条3項必要
休憩・作業の制限均等法13条(母健連絡カード)医師の指導+申し出
夜勤・残業・オンコール労基法66条必要
重いものの制限女性労働基準規則不要
不利益な扱いの禁止均等法9条―

オペ室は、放射線・長時間の立ち仕事・オンコールと、妊娠中に負担になる要素が多い職場です。だからこそ、使える制度を知っておくことが自分と赤ちゃんを守ることにつながります。


※この記事は、2026年9月時点の法令をもとに一般的な情報をまとめたものです。個別の状況については、職場の担当者、産婦人科の医師、または労働局の総合労働相談コーナーなどにご相談ください。体調に不安がある場合は、無理をせず早めに医師に相談してください。

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